雲ひとつない空へ──【鬼頭明里 1st LIVE TOUR「Colorful Closet」名古屋公演】感想

はじめに

2020年10月3日に開催された「鬼頭明里 1st LIVE TOUR「Colorful Closet」名古屋公演」がとても良いライブだったので感想をつらつら書いていこうかと思う。

コロナ禍と開催にあたって

まずはじめにこれを書いておかなければならない。 世は大コロナ時代。新型コロナウイルスの影響で数多くのイベントが中止・延期となり、多くのオタク達が肩を落としたことだろう。声優オタクにとって非常に苦しい状況が続く中で、今回のライブは開催された。それは強行とも言えるかもしれないが、当然、開催するにあたって何の対策も打っていない訳ではなく、現地では声出しNG・フェイスシールドの着用・キャパ50%チケ代2倍での実施等、多くの制約が設けられ、オタク達の間で物議を醸したりしていた。 しかし悪いことばかりではなく、生配信の実施があったり、現地では充実した入場特典や30秒間の写真撮影、更には終演後鬼頭さん本人によるお見送り等もあったらしく、本人を含む運営側の何とかライブを良いものしようという強い想いが十分に感じられた。

念願の1stライブ、決して万全とは言えない状況ではあったが、そこにはかつて我々が体験した、変わらぬ声優ライブの魅力とそれを思い出させるような心震わせる想いが確かにあった。

本編

以下、ライブのセットリストに沿って感想を書いていく。言い忘れていたが今回のライブはツアーで名古屋公演は東京、大阪と来ての千秋楽のライブとなる。また名古屋は鬼頭さんの出身地でもあり、1stライブの千秋楽にして凱旋公演という贅沢なライブである。 ライブの模様は10月6日までアーカイブ配信をやっているそうなので是非。

1.Swinging Heart

アルバム曲をアレンジしたようなオシャレなオープニングを終え、一曲目。デビュー曲のSwinging Heartよりライブが開幕。Swinging Heartの高揚感のあるイントロに合わせて、ステージ後方にあるアルバムのジャケットにも使われたピンクのクローゼットが開き鬼頭さんが登壇する演出がめちゃくちゃ熱い。
これは個人的にだが、Swinging Heartの開幕にブレスが入っていて、このブレスを合図に曲、ひいてはライブが始まるのがめちゃくちゃ良くて、彼女の声優アーティストとしてのスタートを予感させてくれた。
「ずっと私を信じていて」「ゼッタイ後悔はさせないよ」と言った歌詞からは今回のライブまでの経緯を踏まえるとまた違って聴こえてくる。「今出来る精一杯をやり切るんだ…行くよ!」そんな彼女の決意と誓いの歌から、これから始まるライブと、声優アーティスト鬼頭明里への期待が高まっていく。
今、振り返って聴くと「キミがいて私がいる今日というフレーズ(最高のフレーム)」という歌詞がグッと刺さってしまうのは非常に憎い。 後になって気がついたことだが、ライブタイトルはこの曲の「カラフルな願い事、溢れ出した」と言う歌詞から来ているように思う。

2.Always Going My Way

続いてアップテンポなナンバー。
皆と盛り上がれる曲が作りたくて出来た曲*1、ということでクラップや合いの手が楽しい曲だが、声出しNGなのが本当に悔しい。とは言え、曲中にはダンサーの方がハンガーに掛けられた衣装(1st、2ndシングル衣装等)をコーディネートする演出があったり、ちょっとした振りが付いていたりと、見ているだけで楽しい演目だった。

MC1

簡単な自己紹介や、名古屋の話、ライブの概要について、衣装についてなどの話が中心。
ここで制限がある中でのライブであることにも触れ、こんな状況で来てくれる人達に何か恩返しがしたい、という想いでブロマイドに手書きで文字を書いたらしく、彼女自身相当思うところがあるんだろうなと感じた。
これは余談だが、「名古屋の人〜?」といった定番のトークに最早懐かしさを感じてしまった。

3.INNOCENT〜4.CRAZY ROCK NIGHT〜MC2〜5.Drawing Wish

バラード曲のINNOCENTから一転、衣装替えを挟んでハードロックのCRAZY ROCK NIGHTへ。
Always Going My Way→INNOCENT→CRAZY ROCK NIGHTという異なる歌声を上手に使い分けており、普段の演技からも感じられる声の器用さを歌声でも感じられた。
また、CRAZY ROCK NIGHTとDrawing Wishでは生バンドの恩恵を存分に浴びた。私はオンラインだったのでライブ行きた…となったのは余談である。

6.dear my distance

dear my distance、完全神曲。特殊イントロ、神。
彼女自身も初のタイアップ曲で思い入れが強い曲と以前語っていたが*2、その言葉の通り感情たっぷりに歌い上げた。1stアルバムのジャケットに使われていた白いドレスに再度早着替えし、一瞬で会場の雰囲気を変える姿は圧巻の一言だった。
やっぱり、超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!なんかなぁ…

7.Star Ark

Star Ark、完全神曲
ここまで少し硬い印象があったのだが、dear my distanceの辺りからスイッチが入った感じがする。 煌びやかなストリングスが心地良く、そこに突き抜けるような歌声が合わさってグッと曲の世界観に引き込まれた。バックモニターの星の演出も綺麗だった。

MC3

dear my distanceのペンライトを色変えが綺麗で堪能出来て嬉しかった、Star Arkの映像が綺麗で楽しんで頂けてたら嬉しい、声が出せないからみんなで一緒に出来ることを考えてみんなでウェーブをやろう等、制限がある中でも楽しんでもらえるような仕掛けが多く含まれていて、彼女なりに色々試行錯誤しながらのライブなんだなと思った。

8.Closer〜9.23時の春雷少女

キュートな一曲との前振りからCloser→23時の春雷少女。(言うほどキュートか?)
どちらも非常に難しい曲だが、そこは流石と言った感じ。23時の春雷少女では振り付けがMVと同じものとなっていて声が出た。(オンラインなのでデカイ声が出せる)(謎マウント)
23時の春雷少女はやはり完全神曲だった。生で聴きた過ぎる。

10.ロケット(月坂紗由)〜MC4〜11.starry(綾野ましろ)

バンド・ダンサー紹介に加え、衣装チェンジ。ここからキャラソン・カバー曲パート。
各公演異なったキャラソン、カバー曲を披露しているらしく、千秋楽の本公演ではRe:ステージ!よりロケット、グランクレスト戦記よりstarryを披露した。この2曲、どちらも声優鬼頭明里の原点とも言えるコンテンツからの選曲な訳で…まあこれはズルイ。starryの曲振りで会場のオタクの絶叫がそれを表している。彼女のファンの方は恐らく意識を失っていたことだろうと思う。
多くの衣装チェンジはライブコンセプトもそうだが、彼女自身がライブで衣装を見るのが好きで、ということらしく、本当にあらゆるところで観客を楽しませようという想いの元で、ライブを構成しているんだなと思った。

12.Desire Again〜13.キミのとなりで〜MC5

キミのとなりでのタイミングで6度目となる衣装チェンジ。
3rdシングルとなるキミのとなりでは今回が初披露ということらしい。また難しい曲が来たな…という印象だが、それは期待の裏返しで、またそれに応える実力への信頼があるんだろうと思う。

14.Tiny Light

アンコール前ラストはTiny Light。アルバムの最後を締めくくるこの曲はアニメ「地縛少年花子くん」のED曲でもあるのだが、この曲は少し特別な曲である。と言うのも、元々花子くんのEDにはDesire Againが使われる予定だったのだが、花子くんのイメージじゃないと鬼頭さんが直談判して誕生した曲だと以前語っていた*3。また、花子くんには彼女自身ヒロインの八尋寧々として出演しており、そのアニメのEDも担当して、ということもあって非常に思い入れの深い曲なのだろう。
アニメのEDからアルバムのラストに、そしてライブの締めへ、彼女の歩みを感じさせるような美しい締めくくりだった。

EN1.君の花を祈ろう

ここまでのライブはとても美しいライブだったと思う。多くの仕掛けからは彼女の観客を楽しませたいということ、パフォーマンスや演目からはライブを良いものにしたいという彼女の想いが伝わってきた。しかし、あえて言うなら、"無難"な内容だと私は感じてしまった。小綺麗で丁寧なライブ、そんな印象があった。間違いなく良いライブではある、でも何かが足りないような、言うならば、どこか殻を破れてないように見えた。
そんなことを思いながら迎えたアンコール。ここで、その殻はこの曲をきっかけに見事に崩壊することとなる。
アンコールの最中、モニターに「お客様から鬼頭明里さんへのサプライズメッセージアップ、いよいよ次の曲です!」と表示される。実は開演前に客席にひとつずつメッセージボードが配られていて、そこにメッセージを書いてサプライズで鬼頭さんに届けようという企画が進行していたのである。
そして、君の花を祈ろうの落ちサビ、一斉にそのボードが掲げられた。それを見た彼女は歌いながら、思わずボロボロと涙を流した。それは彼女の殻がボロボロと崩れていくような、そんな感覚だった。声は上澄っていたし、綺麗な歌ではなかったかもしれない。それでも、それは私が今日見たものの中で最も美しい瞬間だったと思う。
元々彼女の活動へのモチベーションは皆に喜んでもらいたい、というものが大きく*4、そしてこの曲君の花を祈ろうはとてもメッセージ性が強い曲で、誰かの為と言う点では、まさにそれを体現した曲であるように思う。
また、「どんな時も隣にいるよ」「いつかまた会える日が来るから」と歌うこの曲をアンコールに持ってきたところに今回のライブに向けた彼女の想いも感じ取れた。
そんな曲中で、観客を楽しませたい思いであらゆるサプライズを仕組み、"今出来る精一杯"で挑んだ今回のツアーの終盤、それをお返しするように仕組まれたファンからのサプライズ。恩を返して、返されて。あぁ、なんて美しいんだろう。私はその輪にはいなかったが、声を出せない中で繋いだ声優とファンのキャッチボールにとても感動した。
「It's blooming your heart その蕾信じて どんな時も隣にいるよ いつかまた会える日が来るから」
ファンは彼女を、彼女はファンを信じて、約束と再会を繰り返しながら育てた蕾は、雨に耐えながら、今ひとつの鮮やかな花を咲かせたのだ。
そんなファンとの絆──約束と再会の曲。本公演でこの曲は特別な曲になったように思う。

MC6

そしてここから彼女の想いがボロボロと溢れ出す。そこで彼女が口にしたのはライブへの不安だった。
初めてのライブ、ただでさえ多くのプレッシャーが掛かる中で、忙しくて十分にリハーサルも出来ず、更にコロナの影響により、多くの制限が掛けられた。そんな中でも、なんとか観客を楽しませたい。そんな思いで挑んだ今回のライブは、確かにそんな彼女の思いを節々に感じられるものだった。しかしそれはある種、不安の裏返しのようなものだったのだと思う。それ故に保守的な内容に感じられてしまっていたのかもしれない。
彼女が漏らした不安から、ようやく等身大の彼女の言葉が聞けたような気がした。そしてその言葉を引き出したのは、不安に覆われた彼女の殻を壊したのは、他でもないファンの存在である。
それぞれが色々な思いを抱えながら迎えた今回の1stライブツアー、厳しい状況の中でも、ファン、運営、そして彼女自身が"今出来る精一杯"でそれに立ち向かい、支え合いながらここまで駆け抜けてきた。
そんなライブ千秋楽、最後にこんな気持ちで終われるとは思ってなかった、皆さんのおかげで楽しかったと言って終われそうです、今日の光景は一生忘れられないんだろうなぁ、と。そんな溢れんばかりの想いを語る彼女の表情はどことなく晴れやかで。あぁ、ようやく、彼女達の想いは報われたんだな、とそんなことを思った。

EN2.Fly-High-Five!

ライブの締めくくり、会場が一体となってフラッグを振り合う。「二度と来ない今日は一生の宝物 最高の今を楽しもうよ」と歌うこの曲は正しく今日の公演を締めくくるに相応しいと言えるだろう。
多くの不安をファンと共に乗り越え、走ってきた彼女。その先にはまるで雨上がりの空のような景色が広がっていた。
そして、この思い出を胸に彼女はまた歩いていくのだろう。
"雲ひとつない空へ"──大団円の中、楽しかったー!という一言でライブは幕を閉じた。

【追記】総括──ライブテーマ「Colorful Closet」について

書き忘れていたことと、書いておきたいことが出てきたので総括として追記する。

今回のライブタイトルである「Colorful Closet」についてだが、これは「色々な鬼頭明里を表現する」ことを大きなテーマとしていることは最早言うまでもないだろう。全7回に渡る衣装替えを行いながら、キャラソン、カバー曲を含んだ種々折々の曲達を様々な歌声で歌い上げる。ジェットコースターのように起伏の激しいセットリストを難無くこなしていく姿からは、声色を器用に使い分ける彼女の強みが十分に感じられた。また、生配信の実施、入場特典、写真撮影タイム、お見送り等と言ったライブに付加価値を付けるような仕掛けも多く用意されており、まさに彼女の「カラフルな願い事」が体現され、それを叶えていくような、そんなライブだったように思う。
そして、そんな彼女の「カラフルな願い事」の根底には「みんなを喜ばせたい」という強い想いがあるのだと私は感じている。
今回のライブでは予期せずして彼女の様々な表情、感情が見られた。
厳しい状況下での1stライブ、彼女の中に様々な想いが巡ったであろうことは想像に容易い。しかしそこは天下の鬼頭明里だ。堂々たる活躍、実績、実力。今やテレビで見る機会も少なくない。そんな彼女は多くのプレッシャーが掛かる中でも、感情を表に出すことなく、いつもどこか余裕そうな表情を浮かべながら、乗り越えていく。そんなイメージがあった。 そんな彼女のことだ。今回のライブもきっと涼しい顔で乗り越えてしまえるんじゃないか。そう思っていた。
しかし当日の彼女を見て直ぐに私の考えは甘かったのだと気付かされた。ステージに現れた彼女はどうしようもなく緊張した表情を浮かべていたのである。
ライブへの不安、やり切れない悔しさ、それでもみんなを喜ばせたいという想い。彼女が必死に表現した「カラフルな願い事」からは、そんな様々な想いを感じ取ることが出来た。そして、最後にはそんな彼女の想いが涙と共に溢れ出し、等身大の姿を見ることが出来た。これは結果的にではあるが、不安も悔しさも涙も、このライブには不可欠な「色」となって輝いていたのかなと、私は思う。

様々な想いを抱えながらも、今出来る精一杯で「カラフルな願い事」を表現し、最後にはその想いが花開き、雲ひとつない空へと向かっていく──そんな「Colorful Closet」だった。

なんてことを書いてるうちにメモリアルな日に突入してしまった。 鬼頭明里さん、アーティストデビュー1周年&誕生日おめでとうございます。

最後に

いや〜良い1stライブだった…厳しい状況下で彼女の"今出来る精一杯"を披露してくれたこと、そして多くのプレッシャーの中、ファンと共に一歩前に進めた今回のライブは非常に価値のあるものだったように思う。これからの彼女の活躍にますます期待が高まるような、そんなライブだった。 また、今回は多くの制限があり、万全とは言えない状態でのライブだった為、彼女自身悔しい思いも沢山あったことと思う。いつかコロナが落ち着いた際には、万全の状態で思いっ切りライブをして欲しい。その時に、このライブを経た彼女がどんなライブを見せてくれるのか、私はそれが楽しみでならない。次のライブこそは現地に足を運びたいものである。
少し個人的な話をすると、私自身ご時世的なこともあって、声優関連の何かを見る、ということからかなり離れてしまっていて、オンラインではあるにしろかなり久々の声優ライブでどうなることやらという感じだったのだが、結局めちゃくちゃ感情になって終わってしまった。これがライブの良さなんだよな…と改めて思わされたし、不安から一歩前に進んだ彼女の姿に大きな力を貰えたような、そんな気持ちになっている。
私は鬼頭明里さんを熱心に応援してる人ではないのだが、それでも心震わせるものが確かにあった素晴らしいライブだった。ホンマ、ありがとうな…
いつか、コロナ禍が落ち着いたら、またイベントに行こうかな、そんな風に思えた在宅オタクの感想でした。

終わり。